おいしい水
湧き水利用は環境インパクトを考えて
「一番おいしいと思える水」は湧き水
ミツカン「水の文化センター」が、東京圏、大阪圏、中京圏の在往者620名を対象に、「水にかかわる生活意識調査(平成H16年度)」を実施し だところ、「おいしいと思える水」の上位は、「湧き水」「ミネラルウォーター」「渓流の水」でした。
湧き水は、雨水が地中でろ過されて、また年間通して、おいしいと感じる温度に保たれています。
マナーの悪さから、汚れたり枯渇したり
「おいしい」「健康にいい」と評判になった湧き水が、マナーの悪さから、汚染されたり枯渇してしまうのは残念なことです。
ある湧水地は、「コレステロール値が下がる」「血糖値が下がった」などと評判になり、湧き水を求める人が1日に50人以上、ペットボトルや給 水タンクを持ってやってきます。なかには軽トラックで乗りつけ、20Lポリ容器を満タンにして持ち帰る人もいます。このため湧水量が減ってし まいました。
アメリカではこんな事件が起きました。湧き水の所有者が大手飲料メーカーと販売契約を結び、メーカーは1日数十万Lの水を採取、地主には2 万ドルが支払われました。周辺の住民は、それまで自由に利用できた水が独占されたことに腹を立てましたが、問題はもっと深刻でした。
大量の水をくみ上げたため、下流域で水不足が起きたり地盤沈下が起こるなどの被害が出たのです。住民はくみ上げ中止を求めましたが、地主は相手にしませんでした。法律では地下水は土地に付属する動産で、土地所有=水所有者ということになります。
とはいえ持続的に水の恩恵にあずかるには、環境へのインパクトが少ない利用法を心がけるべきでしょう。水は誰のものか、どのように使うぺき かを考える時期にきています。
その料理に合う水の硬度
ひと口に「おいしい水」といっでも、その性質は湧き出す地層によってずいぶん違います。水の硬度の影響を大きく受けているのが料理です。「どの料理に、どんな水が合うか」という議論がありますが、もともとは、日本では軟水を活かした和食、フランスでは硬水を活かした肉料理という
ように、土地それぞれの水を活かした料理法が生まれてきたのです。
和風だしをとる
繊細な味の和風だしをとるには、硬度0~30くらいの軟水が適しています。昆布やかつお節のうまみ成分を、抽出力の高い軟水が引き出しま す。硬水の場合、昆布に含まれるタンパク質と、水の中のカルシウムが結合し、うまみがアクになってしまいます。
ご飯を炊く
ご飯を炊くには、その米の産地の水がペストです。一般的には、硬度70くらいまでの軟水がよいでしょう。カルシウム分の多い硬水で炊くと、 ご飯がパサパサになってしまいます。
肉を煮る料理
肉を軟らかく煮たり、スープストックをとる場合には、硬度200~300くらいの硬水が適しています。ミネラル分か、肉を硬くする硬タンパク質と結びつき、アクとなって出てしまいます。結果としては肉は軟らかくなり、アクをすくうことで濁りのないスープストックがとれます。
緑茶や紅茶をいれる
お茶は水の硬度に敏感です。とくに緑茶は、グルタミン酸やテアニンなどの変化しやすい成分を含み、若葉の微妙な香りがそのおいしさとなって いるため、硬度O~50の軟水でいれるとまろやかな味になります。
硬水で緑茶をいれると、カルシウムとタンニンが結合し、お茶の成分が浸出しにくくなって、渋みが少なく色の薄い緑茶になります。
紅茶の場合、ダージリンやセイロンは軟水が、アッサムは中硬水が向いています。ウーロン茶は、100~200程度の水を選ぶとよいでしょう。
「名水百選」の水はほんとうにおいしいのか?
保全状況が良好で保全活動があること
環境庁(当時)は1985年に「名水百選」を選定しました。そもそも名水百選は、全国のさまざまな清澄な水を再発見し、それらを紹介することで、水質保全への意識を深めることを目的としています。
選定のための判定条件は、①水質・水量、周辺環境(景観)、親水性の観点からみて保全状況が良好なこと、②地域住民等による保全活動があること、の2点です。この2点を必須条件とし、このほかに③規模、④故事来歴、⑤希少性、特異1生、著名度などの項目が勘案されました。
名水というと湧き水のイメージが強いかもしれませんが、「名水百選」のうち湧き水は75か所で、そのほか河川がIBか所、地下水が4か所、自噴水が1か所、用水が2か所となっています。
各都道府県からひとつ以上選出されていますが、複数の名水が選出されている県もあり、3か所選ばれている都道府県は、北海道、石川、福井、山梨、長野、岐阜、岡山、愛媛、大分、鹿児島、4か所選ばれている都道府県は、富山、熊本です。いずれも「水どころ」として有名な県です。
百選の中には飲み水として適していないものも
選定された水の中には、ペットボトルに詰められて販売されている水もあります。現地では「名水百選に選ばれたおいしい水」などとPRされる
ケースもあり、「名水百選」=「おいしい水百選」という誤解を招くことがあります。
また、山麓に湧き出る地下水や湧き水が多いことも「おいしい水」と誤解される原因になっているのでしょう。
しかし、前述したように選定基準の中に「味」は含まれていません。たしかに、おいしい水として有名なものも選ばれていますが、百選の中には、汚染が進行したり、大腸菌が検出されるなど、飲み水として適していないものもあります。
日本の名水百選
北海道・東北地方
- 羊蹄のふきだし湧水
- 甘露泉水
- ナイペツ川湧水
- 富田の清水
- 渾神の清水
- 龍泉洞地湖の水
- 金沢清水
- 桂葉清水
- 広瀬川
- 六郷湧水群
- 力水
- 月山山麓湧水群
- 小見川
- 磐梯西山麓湧水郡
- 小野川湧水
関東地方
- 八溝川湧水
- 出流原弁天池湧水
- 尚仁沢湧水
- 雄川堰
- 箱島湧水
- 風布川・日本水
- 熊野の清水
- お鷹の道・真姿の池湧水群
- 御岳渓流
- 秦野盆地湧水群
- 洒水の滝・滝沢の滝
中部地方
- 龍ケ窪の水
- 杜々森湧水
- 黒部川扇状地湧水群
- 穴の谷の霊水
- 立山玉殿湧水
- 爪破の清水
- 弘法地の水
- 古和秀水
- 御手洗池
- 瓜割ノ滝
- 御清水
- 鵜の瀬
- 忍野八海
- 八ヶ岳南麓高原湧水群
- 白州・尾白川
- 猿庫の泉
- 安曇野わさび田湧水群
- 姫川源流湧水
- 宗祇水
- 長良川(中流域)
- 養老の滝・菊水泉
- 柿田川湧水群
- 木曽川(中流域)
- 智積養水
- 恵利原の水穴(天の岩戸)
- 十玉村の水
- 泉神社湧水
近畿地方
- 伏見の御香水
- 磯清水
- 離宮の水
- 宮水
- 布引渓流
- 千種川
- 洞川湧水群
- 野中の清水
- 紀三井寺の三井水
中国地方
- 天の真名井
- 天川の水
- 壇鏡の滝湧水
- 塩釜の冷泉
- 雄町の冷泉
- 岩井
- 太田川(中流域)
- 出合清水
- 別府弁天池湧水
- 桜井戸
- 寂地川
四国地方
- 江川の湧水
- 剣山御神水
- 湯船の水
- うちぬき
- 杖の渕
- 観音水
- 四万十川
- 安徳水
九州・沖縄地方
- 清水湧氷
- 不老水
- 竜門の清水
- 清水川
- 島原湧水群
- 轟渓流
- 轟水源
- 白川水源
- 菊池水源
- 池山水源
- 男池湧水群
- 竹田湧水群
- 白山川
- 出の山湧水
- 綾川湧水群
- 屋久島宮之浦岳流水
- 霧島山麓丸池湧水
- 清水の湧水
- 垣花樋川
どんな水でもミネラルウォーター?
水には地下の鉱物が溶けている
水には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄、マンガンなどのミネラル分が含まれています。
ミネラル分は市販の「ミネラルウォーター」に含まれると思っている人がいますが、そうではありません。地下水、湧き水、川の水、さらには水道水にも、多かれ少なかれ、大地のミネラルが溶け込んでいます。反対に、「ミネラルウォーター」として売られていても、ミネラル分の少ない水もあります。
ミネラルは人間の身体に、なくてはならないものです。ミネラルが不足すると、貧血(鉄分不足)、骨粗しょう症(カルシウム、マグネシウムなどの 不足)、糖尿病(カルシウム、マグネシウムなどの不足)などの原因になります。
日本人の死因の第2位は心疾患です(第1位はガン、第3位は脳血管疾患)。その原因は、食生活が欧米化して動物性脂質をとりすぎるようにな ったことと、マグネシウム摂取量の減少といわれています。
カルシウムが健康維持に欠かせないと声高に叫ばれ、摂取量が増えているにもかかわらず、マグネシウムの摂取量は増えていません。カルシウムだけを大量にとると、カルシウムとマグネシウムのバランスが崩れ、突然死をはじめとする心臓発作や、心臓や脳の血管障害の危険が高まります。
ミネラルは食事からとるのが基本
カルシウムとマグネシウムの摂取比率は2:1が理想です。
1日あたりの目安摂取量は、カルシウム600mg、マグネシウム300mgといわれています。ミネラルウォーターでミネラル分を補うなら、ミネラルウォーターの成分表示を見て、硬度の高い水を選言必要があります。
とはいえ、ミネラル分は食事からとるのが基本です。ミネラルウォーターはサプリメントではありませんから。
| カルシウム |
適量摂取 による効果 |
骨粗しょう症の予防、イライラ解消、腰痛・肩こりの緩和など |
| 多く含む食品 | 乳製品、豆類、いわし、ピーナッツなど | |
| 血液中のカルシウムには精神を安定させる働きもあるとされるので、心身ともに健やかに生活するためにも積極的にカルシウムを摂取するとよい。 | ||
| マグネシウム |
適量摂取 による効果 |
精神安定、心臓発作の予防、歯の健康、消化不良の緩和 |
| 多く含む食品 | 豆類、ヨーグルト、ひじき、ほうれん草など | |
| マグネシウムは体内の血管の浄化作用や血管の硬化予防にも効果が高いとされ、生命を維持するために重要なミネラル。また、骨粗しょう症予防にカルシウムが必要なことは知られているが、マグネシウムも骨密度を高くし、強い骨を作る手助けをすることが確認されている。 | ||
| カリウム |
適量摂取 による効果 |
体内の老廃物を除去、血圧降下作用 |
| 多く含む食品 | 柑橘類、トマト、せり、緑色野菜、バナナ、じゃがいもなど | |
| ストレス、下痢、利尿剤服用者、コーヒーやアルコールを多く飲む人、甘いものが好きな人は、カリウムが欠乏しがちなので補給する必要がある。また低炭水化物食でダイエットをすると体重が減るだけでなく、体内のカリウムも一緒に減ってしまうので補う必要がある。 | ||
硬い水・軟らかい水
水の中のカルシウムとマグネシウムの量が決め手
ペットボトルの水がブームになって以来、「水の硬度」が話題になるようになりました。硬度とは、水中のカルシウムとマグネシウムの合計量を
表わしたものです。市販のミネラルウォーターについている成分表示を見てください。水1Lあたり、「カルシウム=◆mg」「マグネシウム=△
mg」と表示されています。
この数値を以下の計算式にあてはめると硬度がわかります。
硬度(mg/g)=(カルシウム量◆×2.5)十(マグネシウム量△×4)
この数値が高いものを硬水、低いものを軟水といいます。
ただしその基準は国や研究者によって違いがあります。
日本の水(地下水、湧水、水道水など)は、ほとんどがWHO基準の「軟水」か「中程度の軟水」に分類されます。「おいしい水研究会」が発表
した「おいしい水の水質要件」では、硬度は10~100がよいとされ、なかでも「50前後を好む人が多い」とされています。これは日本人が日
本の水に慣れ親しんでいるということでしょう。人は、生まれ育った故郷の氷をいちばんおいしいと感じるのです。
硬度は湧き出す地層で変わる
場所によって水の硬度が違うのは、湧き出す土壌が違うからです。たとえば、ヨーロッパの地質の多くは石灰岩層からなる堆積岩で、地下水がゆっくり地中を流れる問にカルシウムや重炭酸イオンを溶かします。一方、火山国である日本は、多くが軽石のような火成岩で形成されています。また、山から海岸までの傾斜が大きいため地下水の流れが速く、ミネラル分か溶け込みにくいのです。このため日本の水は硬度が低く、ヨーロッパの水は硬度が高くなります。
硬度によって水の味も変わり、軟水はさらりとしたさわやかさかおり、硬水はずっしりと飲みごたえがあります。
水温・ミネラル・二酸化炭素が「おいしさ」を決める
10~15℃に冷やす、70℃前後に温める
水には多くの成分が溶け込んでおり、その量やバランスによって味が変化します。1985年、旧厚生省の諮問機関であった「おいしい水研究会」
は、おいしい水の水質要件7項目を下記の表のようにまとめました。
なかでも重要とされているのが「水温」で、水質要件では20℃以下となっていますが、最もおいしいのは10~15℃の範囲です。
井戸水や湧き水をおいしいと感じるのも、大きな要因は水温です。井戸水や湧き水は、本州では12~14°C、九州では16~18℃と、年間を通して「おいしい温度」に保たれています。
また、水道水でも10~15℃くらいに冷やすと、カルキ臭を感じなくなり、「おいしい」と感じます。反対に、冷えていて「おいしい」と感じた水でも、温まるにつれカルキ臭を感じることもあります。
おいしい水にはミネラルと二酸化炭素が含まれる
極力H20に近い水を「純水」といいますが、これを飲んでも味がまったくなく、おいしくありません。おいしい水には、ミネラル分と二酸化炭素(炭酸ガス)が適度に含まれています。
水質要件7項目の「蒸発残留物」とは、おもにミネラルのことです。
ミネラルとはカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガンなどの鉱物質を指します。水に含まれるミネラルが少なすぎると味が感じられず、多すぎると苦みや渋みを感じます。
また、二酸化炭素が十分に溶けていると、水にさわやかな味わいが生まれます。具体的には1L中に3~30mg程度含まれていると新鮮味を感
じます。カルキ臭を消そうとお湯を沸騰させ、冷ました水(湯冷まし)を飲んでみると、味も素っ気もありません。これは沸騰させたときに、塩素
とともに二酸化炭素も揮発してしまったからです。
| 水質項目 | おいしい水の要件 | 内容・特徴 |
| 蒸発残留物 | 30~200mg/L |
水を沸騰させても蒸発しないようなミネラ ルや鉄、マンガンなどを指し、1L中30~ 200mg含まれているのが理想とされる。 量が多いと苦味や渋味が増し、適度に含ま れると、コクのあるまろやかな味がする |
|
マグネシウム・カルシウム (硬度) |
10~100mg/L |
ミネラルの中で量的に多いカルシウム、マグ ネシウムの含有量を示す。多いと硬水と呼ば れ味への好き嫌いが出る。低いと軟水と呼ば れ、コクのない水となる。1L中に50mg前 後を含んでいるのが好まれる |
|
遊離炭酸 (二酸化炭素) (炭酸ガス) |
3~30mg/L |
湧き水や地下水などに多く含まれ、水に新 鮮でさわやかな味を与える。多いと刺激が 強くなる |
|
有機物など (過マンガン酸カリウム消費量) |
3mg/L以下 |
有機物量を示し、多いと渋味をつけ、多量に含 むと塩素の消費量に影響して水の味を損なう |
| 臭気強度 | 3以下 |
水源の状況により、さまざまな臭いがつく と不快な味がする。異臭味を感じない水準 |
| 残留塩素 | 0.4mg/L以下 |
水にカルキ臭を与え、濃度が高いと水の味 をまずくする。塩素臭が気にならない濃度 |
| 水温 | 20℃以下 |
おいしい水には水温も大切な要素。 1O~ 15℃が飲んでおいしいと感じる温度 |
山頭火の句碑が教えるおいしい水のある場所
山頭火はミネラル分の少ない軟水を好んだ
漂泊の俳人・種田山頭火(1882~1940年)は利き水の名入で、ミネラル分のきわめて少ない軟水を好みました。これは広島国際学院大学の
佐々木健教授の研究でわかったことです。佐々木教授は全国約200か所で水質調査を行ないました。すると、名水の里と呼ばれる土地で、山頭火の句碑に出合うことに気づきました。
山頭火は水に関する句や記述を多く残しています。佐々木教授は句集から、「へうへうとして水を味わう」(鳥取・大山)など水に関する句を選び
出し、さらに日記や手紙の記述などを参考に山頭火が実際に口にしたと推測される25か所の水をくみ、pH(ペーハー)、硬度、イオン、有機物、 鉄などの成分を分析しました。
日本の水は、ほとんどが軟水なのですが、山頭火が好んだのは、とりわけミネラル分の少ない「超軟水」でした。そして、旧厚生省(現在の厚生 労働省)が定めた「有機物や鉄分が少なく澄んだ軟水」という「おいしい水の要件jにも合致していました。
軟水、硬水は流れる音を聞けばわかる
山頭火の句に、「水の味も身にしむ秋となる」「落葉するこれから水がうまくなる」があります。 10月、卜月頃は降水量が減り、水の成分中のミネラル濃度がわずかに上昇し、おいしく感じられます。山頭火は水の旬にも気づいていました。
山頭火の「吉吉水」とは、「水の味をきく」「香りをきく」「音を聴く」の3つを合わせたものです。晩年は、流れる水の音を聴いただけで、味や香りまでわかりました。おそらく水と石や岩のぶつかる音で水質を見極めたのでしょう。硬水の流れる(湧き出す)場所では石や岩にこけ等が付着しやすいので水音は柔らかく、軟水の場所ではこけ等が付着しにくいので水が直接、石や岩にぶつかり激しい音がします。「飲みたい水が音たてて いた」とは、おいしい水を見つけた喜びだったのかもしれません。